砂抜き中のしじみから、白い舌のようなものが伸びて驚いたことはありませんか。その正体は、砂に潜ったり体の向きを変えたりするための「斧足」です。殻を閉じてじっとしているように見えるしじみも、湖底では足を巧みに使って暮らしています。この記事では、しじみの足の構造や潜砂のメカニズム、潜る速さを左右する条件、砂抜き中に見える動きの意味まで紹介します。
しじみちゃんです!じっとしているように見えて、砂の中ではちゃんと足を動かしているんだよ!
しじみの殻から出る白いものの正体

砂抜き中のしじみを静かに観察していると、殻の隙間から白っぽいものが伸びてくることがあります。
舌のようにも見えますが、しじみの口ではありません。しじみが砂に潜ったり、体の位置を変えたりするために使う大切な器官です。
しじみには「斧足」と呼ばれる1本の足がある
しじみを含む二枚貝の多くは、「斧足(ふそく)」と呼ばれる筋肉質な足を持っています。
横から見た形が斧の刃に似ていることから、この名前が付けられました。人間や動物のように左右に分かれた足ではなく、殻の間から伸びる一つの大きな器官です。
普段は殻の内側に収められていますが、砂に潜るときには細長く伸び、砂や泥の中へ差し込まれます。
斧足は砂に潜るための筋肉質な器官
斧足には、伸びたり縮んだりする力があります。
しじみは足を砂の中へ差し込み、その場所を支点にして殻を引き寄せます。砂のないボウルやバットの中でも足を伸ばすことがあり、容器の底を押しながら少しずつ体の位置を変える様子が見られます。
陸上の動物のように歩くための足ではなく、湖底の砂へ潜り、体を安定させるための器官と考えると分かりやすいでしょう。
足と入水管・出水管の見分け方
しじみの殻から伸びてくる白っぽいものが、すべて斧足とは限りません。
しじみには斧足のほかに、水を取り込む「入水管」と、体内を通った水を外へ出す「出水管」があります。
斧足は比較的太く、砂や容器の底へ向かって大きく伸びます。一方、水管は短い管のような形をしており、呼吸や食事のために水を出し入れする器官です。
砂抜き中に白いものが見えたときは、形や伸びる方向を観察すると、足なのか水管なのかを見分けやすくなります。
砂に潜り、体を守り、水を取り込んで呼吸や食事を続ける。小さな動きの一つひとつに、湖底で暮らすための仕組みが備わっています。
しじみが湖底でどのくらいの年月を過ごし、どのように成長していくのかについては、以下の記事で詳しく紹介しています。
しじみが砂に潜るメカニズム

硬い殻に覆われたしじみが、自分の力だけで砂の中へ入っていく様子は、少し不思議に見えます。
しじみは力任せに砂を押しのけているのではありません。斧足を伸ばす、砂の中に固定する、殻を引き寄せるという動きを繰り返しながら、少しずつ体を沈めていきます。
斧足を固定して殻を引き寄せる
しじみが潜るときは、まず殻の間から斧足を伸ばし、砂の中へ差し込みます。
足が十分に入ると、先端付近をふくらませて砂の中に固定します。その状態で足の筋肉を縮めると、足だけが殻へ戻るのではなく、殻のほうが砂の中へ引き寄せられます。
この一連の動きを何度も繰り返すことで、殻は徐々に砂の中へ沈んでいきます。
足の先端を膨らませて砂をつかむ
斧足は、ただ真っすぐ伸びるだけではありません。
砂へ入り込むときは細長い形になり、十分な深さまで入ると先端付近を横方向へふくらませます。砂の中で抜けにくい形をつくり、殻を引き寄せるための支点にするためです。
船の錨のような働きにたとえられることもありますが、斧足は形を細かく変えながら砂へ入り、体を支えています。
筋肉を縮めて殻を砂の中へ運ぶ
斧足を固定した後は、筋肉を縮めて殻を下へ引き込みます。
一度の動きで全身が砂に埋まるわけではありません。足を伸ばして固定し、殻を引き寄せた後、再び足を伸ばす。この動きを何度も繰り返します。
丸みを帯びた殻の形も、砂を左右へ押し分けるうえで役立ちます。斧足の動きと殻の形が組み合わさることで、小さなしじみでも自力で砂の中へ潜ることができます。
しじみが砂に潜る速さを左右する条件

しじみが砂に潜るまでの時間は、すべての個体で同じではありません。
しじみの大きさや状態だけでなく、水温、塩分、砂の粒の大きさ、砂の硬さなどによっても潜りやすさが変わります。
ヤマトシジミは約30分で潜った研究例がある
ヤマトシジミの潜砂行動を調べた室内実験では、移動前後で塩分が変わらない条件において、約30分で速やかに砂へ潜ったことが報告されています。
ただし、すべてのヤマトシジミが必ず30分で潜るわけではありません。
生息していた環境から急に移された場合や、水温や塩分が大きく変化した場合には、すぐに潜らないことがあります。潜る時間は、しじみが置かれた環境によって変わると考えるのが自然です。
塩分の急変は潜砂行動を鈍らせる
ヤマトシジミは、淡水と海水が混ざり合う汽水域に生息しています。
汽水域は場所や天候によって塩分が変化しますが、短時間に塩分が大きく変わると、しじみの体には負担がかかります。
実験でも、移動前後の塩分差が大きい条件では潜砂しにくくなり、長時間経過しても砂へ潜らない個体が確認されています。
環境が急に変わったときは、潜ることよりも殻を閉じて体を守る反応が優先されると考えられます。
砂の粒や硬さも潜りやすさに影響する
しじみが足を差し込みやすいかどうかは、砂の状態にも左右されます。
砂の粒が大きすぎたり、底が硬く締まりすぎていたりすると、斧足を十分に差し込めません。一方、細かすぎる泥だけの環境では、足を固定しにくくなる可能性があります。
自然の湖底には、砂や泥、植物のかけらなどが混ざっています。しじみはその中から、足を固定しやすく、水を取り込みやすい場所に体を落ち着かせます。
「何分で潜るか」だけを見るのではなく、どのような底質へ潜るのかにも注目すると、しじみの生態がより分かりやすくなります。
しじみが砂の中に潜る理由

しじみがエネルギーを使って砂に潜るのには、湖底で生き残るための理由があります。
砂の表面に出たままでいるよりも、体の大部分を砂の中に隠したほうが、外敵や水流の影響を受けにくくなります。
魚などの天敵から身を守る
ヤマトシジミが砂へ潜る大きな理由の一つが、魚などの天敵から身を守ることです。
硬い殻を閉じれば柔らかい身を守れますが、砂の表面に出ていると、魚や水鳥などに見つかりやすくなります。
砂の中へ体を隠すことで、外敵から発見される可能性を減らせます。小さなしじみにとって、潜ることは湖底で生き残るための重要な防御行動です。
水流に流されにくい姿勢を保つ
湖底では、天候や水位の変化によって水の流れが強くなることがあります。
砂の表面に出たままでは、水流に押されて別の場所へ運ばれたり、浅い場所へ打ち上げられたりする可能性があります。
体の一部を砂の中へ入れておけば、湖底で姿勢を保ちやすくなります。斧足を使って潜る行動は、外敵だけでなく、水の流れから身を守ることにもつながっています。
水管を出して呼吸と食事を続ける
しじみは砂の中に潜っても、完全に外の水から離れるわけではありません。
砂の表面近くに入水管と出水管を出し、入水管から水を体内へ取り込みます。水中の酸素をえらへ送り、植物プランクトンなどの有機物をこし取って食べます。
体内を通った水や排せつ物は、出水管から外へ出されます。
深く潜りすぎれば水を取り込みにくくなり、浅すぎれば殻が外敵に見つかりやすくなります。しじみは斧足を使い、身を守りながら呼吸と食事を続けられる位置に体を落ち着かせています。
砂抜き中に見えるしじみの動き

家庭でしじみを砂抜きしていると、足や水管を伸ばしている個体が見つかることがあります。
普段は殻の中に隠れている部分なので、初めて見ると驚くかもしれません。しかし、生きているしじみが周囲の水に反応しているときに見られる自然な動きです。
足や水管の動きは生きている反応の一つ
しじみが斧足や水管を伸ばしているのは、周囲の環境に反応して活動している様子の一つです。
水管を使って水を取り込み、呼吸や排出を行っているときにも、殻の隙間から白っぽい器官が見えます。
ただし、足や水管を出していることだけで、しじみの鮮度や品質を判断することはできません。反対に、足を出していないしじみが、すべて弱っているわけでもありません。
水温が低いときや、容器へ移した直後、振動の多い場所では、しばらく殻を閉じたまま動かないことがあります。
しじみの状態は殻や臭いも含めて確認する
しじみの状態を確かめるときは、動きだけでなく、殻の様子や臭いも確認します。
生きているしじみは、殻を閉じているか、少し開いていても触れると閉じるのが一般的です。
殻が大きく開いたままになっており、触れても反応しないものや、不自然な臭いがするものは取り除きます。殻が割れているものも、調理前に分けておくと安心です。
「水に入れて何分経ったか」だけで判断せず、複数の状態を見ながら確認しましょう。
暗く静かな環境で砂抜きを行う
しじみを砂抜きするときは、バットなどの平らな容器に重ならないよう並べます。
宍道湖産のヤマトシジミを砂抜きする場合は、水1リットルに対して塩約10グラムを溶かした、濃度約1%の塩水が一つの目安です。
アルミホイルや新聞紙などをかぶせ、暗く静かな場所へ置きます。水を吐くことがあるため、容器の周囲がぬれないようにしておくと安心です。
網やザルの上にしじみを並べれば、吐き出した砂や汚れが下へ落ち、再び取り込みにくくなります。
なお、砂抜き済みの商品は、家庭で長時間砂抜きをやり直す必要はありません。商品に記載された保存方法や調理方法に従って使用してください。
宍道湖のヤマトシジミを支える斧足

宍道湖に生息するヤマトシジミも、斧足を使って湖底の砂泥へ潜ります。
宍道湖は淡水と海水が混ざり合う汽水湖です。川から流れ込む淡水や日本海側から入る海水、雨量や風などの影響を受け、湖内の環境は常に一定ではありません。
汽水湖の湖底で暮らすヤマトシジミ
ヤマトシジミは、宍道湖の湖底に体を潜らせながら暮らしています。
斧足を使って自分の体を安定させ、入水管と出水管を水中へ伸ばしながら、呼吸や食事を続けます。
外から見ると動きの少ない生き物ですが、湖底では水や砂の状態に合わせて体の位置を調整しています。
外から見ると動きの少ない生き物ですが、湖底では水や砂の状態に合わせて体の位置を調整しています。
ただし、一年を通して同じように活発に動いているわけではありません。水温が下がる冬には活動量や代謝が低下し、湖底でじっと過ごす時間が長くなります。
冬のしじみが湖底でどのように過ごしているのかは、以下の記事で詳しく解説しています。
斧足が湖底での暮らしを支えている
斧足には、砂へ潜るだけでなく、体の向きを整えたり、安定した場所へ位置を変えたりする役割があります。
宍道湖のように塩分や水温が変化する環境では、その場にとどまるだけでなく、自分に合った位置へ体を落ち着かせることも大切です。
小さな1本の足は、ヤマトシジミが汽水湖の環境で生きていくために欠かせない器官なのです。
小さな動きにしじみの生命力が表れる
砂抜き中に見える斧足や水管は、普段は殻の内側に隠れています。
しじみが足を伸ばして体を動かす姿を見ると、殻の中で静かにしているだけの生き物ではないことが分かります。
砂に潜り、体を守り、水を取り込んで呼吸や食事を続ける。小さな動きの一つひとつに、湖底で暮らすための仕組みが備わっています。
まとめ|しじみは1本の足で砂の中へ潜る
しじみの殻から伸びる白い器官の一つが、筋肉質な「斧足」です。
斧足を砂の中へ差し込み、先端をふくらませて固定し、筋肉を縮めながら殻を引き寄せる。この動きを繰り返すことで、しじみは自分の力で砂の中へ潜ります。
潜るまでの時間は、塩分や水温、砂の状態、しじみの体調などによって変わります。ヤマトシジミの研究では、環境変化が小さい条件で約30分かけて潜った例も報告されています。
砂抜き中に足や水管を伸ばす姿は、しじみが周囲の水に反応している自然な動きです。ただし、動きだけで鮮度を判断せず、殻の閉じ方や臭いなども含めて確認しましょう。
有限会社コクヨーでは、島根県出雲市で宍道湖産ヤマトシジミの仕入れから洗浄、砂抜き、選別、加工、販売までを行っています。宍道湖で育ったしじみを、ご家庭で調理しやすい状態に整えて全国へお届けしています。

しじみの足や潜る仕組みを知ってから砂抜き中の様子を眺めると、小さな殻の中に隠された生き物としての面白さも、より身近に感じられるのではないでしょうか。
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